岡山地方裁判所 昭和49年(わ)495号 判決 1975年6月19日
本籍
岡山県小田郡矢掛町矢掛二、五三三番地
住居
同町矢掛二、六七五番地の三
割箸製造販売業
小倉山治
昭和二年二月二〇日生
右の者に対する所得税法違反被告事件につき当裁判所は検察官田井正己出席の上審理を遂げ、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役四月及び罰金二五〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金一万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
本裁判確定の日から二年間右懲役刑の執行を猶予する。
(罪となるべき事実)
被告人は、岡山県小田郡矢掛町二、五三三その他二ヶ所に工場を設けて箸製造販売業を営むとともに、金融手形の買取りを行つているものであるが、所得税を免れようと企て、
第一 昭和四六年一月一日から同四六年一二月三一日までの所得金額は二九、一二三、四二八円で、これに対する所得税額は一三、八三二、一〇〇円であるのに、売上げの一部及び金融手形買取利益を除外し、偽名の預金を設定するなどの行為により所得の一部を秘匿したうえ、同四七年三月一五日所轄の笠岡市五番町五番四八号笠岡税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八、三九七、八三五円で、これに対する所得税額は二、三四二、六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税一一、四八九、五〇〇円を逋脱し、
第二 昭和四七年一月一日から同四七年一二月三一日までの所得金額は一七、〇七八、六五〇円で、これに対する所得税額は六、六三九、七〇〇円であるのに、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、同四八年三月一四日所轄の前記税務署長に対し、所得金額が四、〇〇一、三七二円でこれに対する所得税額は五八九、九〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もつて不正の行為により所得税六、〇四九、八〇〇円を逋脱し
たものである。
(証拠の標目)
一、被告人の当公判廷における供述
一、被告人作成の上申書
一、被告人の検察官に対する供述調書
一、被告人の大蔵事務官に対する質問てん末書四通
一、小倉美江作成の上申書
一、泉谷彰一作成の告発書・脱税額計算書・調査事績報告書(最後綴分)
一、泉谷彰一作成の脱税額計算書説明資料
一、山下恭助の大蔵事務官に対する質問てん末書
一、空井啓容作成の調査事績報告書(前綴分)
一、松井悦太郎の検察官に対する供述調書
一、亀川・片山遼平作成の各証明書
一、吉賀正作成の調査事績報告書五通
一、加藤秀貴作成の調査事績報告書
一、亀川・片山遼平(二通)作成の各答申書
一、松田憲麿作成の調査事績報告書
一、押収にかかる青色申告書類綴一冊・確定申告書一綴・昭和四七年度分納品書、請求書、領収書入段ボール箱一箱(昭和五〇年押第一七号の一・二・九七)
(法令の適用)
各所為 所得税法二三八条一項(懲役刑と罰金刑を併科する。)
併合罪処理 刑法四五条前段・四七条本文・一〇条・四八条二項
換刑処分 同法一八条
懲役刑の執行猶予 同法二五条一項
(弁護人の主張に対する判断)
弁護人は、「本件起訴は、昭和四九年一一月二二日付をもつてなされており、これに対する国税局からの告発手続は同年三月一八日付をもつてなされている。ところが、弁護人提出の昭和四六年分及び同四七年分の所得税の修正申告書によれば、被告人は右告発及び起訴の前である昭和四九年二月一六日付をもつて各年度の正当な所得の修正申告を為していることが認められる。そして、右修正があつたことにより、国税通則法一九条・二四条により、各事業年度の確定申告期限内に邇及して、当初申告の過少税額が正当税額の確定に変更修正されたと解すべきである。従つて、被告人は、所得税法二三八条にいう所得を免れたことにならないから、租税逋脱罪は成立しない。」と主張する。
しかしながら、修正申告の効力は、これによつて増加する部分の税額についてのみ生ずるものであつて、それにより前の申告がなかつたことにはならず、従つて、一旦前の不正行為による申告によつて正当な税額に達しない納税がなされ、そのまま法定納期限を過ぎれば、それによつて所得税の逋脱犯が成立し、たとえそのご納税者から正当な税額に修正する旨の修正申告がなされても、これによつて右罪の成立になんらの消長をきたさないものというべきである。これを本件についてみるに、被告人は昭和四六年度の所得税については昭和四七年三月一五日、昭和四七年度の所得税については昭和四八年三月一四日それぞれ所轄税務署長に対し判示のように不正行為による虚偽の所得税確定申告書を提出し、各納期を過ぎたことにより、判示各所得税逋脱犯が成立したものというべく、弁護人主張の修正申告は右犯罪の成立になんらの消長をきたさないことが明らかである。右主張は採用できない。
よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 渡辺宏)